累積がん罹患リスク(生涯でがんに罹患する確率)
生涯でがんに罹患する確率は、男性65.5%(2人に1人)、女性51.2%(2人に1人)となっています。
部位 | 生涯がん罹患リスク(%) | 何人に1人か | ||
---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
全がん | 65.5% | 51.2% | 2人 | 2人 |
食道 | 2.5% | 0.5% | 40人 | 184人 |
胃 | 10.0% | 4.7% | 10人 | 21人 |
結腸 | 6.5% | 5.9% | 15人 | 17人 |
直腸 | 3.8% | 2.3% | 26人 | 44人 |
大腸 | 10.3% | 8.1% | 10人 | 12人 |
肝臓 | 3.0% | 1.5% | 33人 | 68人 |
胆のう・胆管 | 1.5% | 1.3% | 66人 | 76人 |
膵臓 | 2.7% | 2.6% | 38人 | 38人 |
肺 | 10.0% | 5.0% | 10人 | 20人 |
乳房(女性) | 11.2% | 9人 | ||
子宮 | 3.4% | 29人 | ||
子宮頸部 | 1.3% | 76人 | ||
子宮体部 | 2.1% | 48人 | ||
卵巣 | 1.6% | 62人 | ||
前立腺 | 11.0% | 9人 | ||
甲状腺 | 0.6% | 1.7% | 174人 | 60人 |
悪性リンパ腫 | 2.3% | 2.1% | 43人 | 48人 |
白血病 | 1.1% | 0.8% | 94人 | 133人 |
「国立がん研究センター がん情報サービス がん登録・統計の「最新のがん統計」」より
食道がんとは
食道の粘膜にできる悪性腫瘍のことを食道がんといい、主に二つのタイプがあります。ひとつは扁平上皮癌で、食道本来の粘膜から生じます。このタイプが日本人の食道がんの90%を占めています。もうひとつは腺癌で、円柱上皮から生じます。腺癌はバレット食道からも生じ、進行した食道がんの一種です。
食道がんは進行すると、食道壁の奥に広がっていきます。粘膜内に留まっているがんは「早期食道がん」と呼ばれます。粘膜下層までに留まっているがんを「表在食道がん」といい、さらに深い層まで広がっているがんは「進行食道がん」と呼ばれます。
進行すると、食道がんは転移するリスクが高まります。がん細胞が血管やリンパ管に侵入すると、肺や肝臓、骨、リンパ節などに転移します。食道壁を越えると、気管や大動脈など近くの臓器にも直接侵入することがあります。
食道がんの主な原因は、喫煙と飲酒です。特に日本人に多い扁平上皮癌は、喫煙と飲酒との関連が指摘されています。飲酒によって体内に生成されるアセトアルデヒドは発がん性があり、この物質の分解に関わる酵素の活性が低い人は、食道がんの発症リスクが高くなるとされています。
また、喫煙と飲酒を両方行っている人ほど、食道がんの発症リスクがさらに高まると報告されています。
食道がんになりやすい人
- 喫煙者
- お酒を飲むと顔が赤くなる方
- 50歳以上の男性
- 頭頚部の腫瘍を経験した方
- バレット食道や食道の炎症・食道アカラシアの診断を受けた方
上記の条件に該当する方は、食道がんの発症リスクが高い傾向があります。症状が目立たない場合でも、胃カメラ検査を受けることをおすすめします。
食道がんの自覚症状・セルフチェック
食道がんが発症しても、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。早期発見のためには胃カメラ検査が必要です。進行すると、以下のような症状が現れます。
- 声がかすれる
- 咳が出る
- 食べ物が詰まる
- 体重が減る
- 熱いものがしみる
- 背中や胸が痛む
症状は進行に従って現れますが、これらの症状は食道がん以外の疾患でも起こる可能性があります。自己判断せずに、一度医師の診察を受けましょう。
食道がんの検査
胃カメラ検査とバリウム検査があります。
胃カメラ検査は、内視鏡スコープを口や鼻から挿入して、胃や十二指腸、食道などを直接観察する検査方法です。胃だけでなく、食道の病気も検出するのに非常に効果的です。検査中に異常な病変が見つかった場合は、その組織を採取して病理組織検査を行うことも可能です。早期の食道がんの発見にも役立つ方法とされています。
一方、バリウム検査は、バリウムを摂取してからレントゲンで食道や胃の状態を調べる検査です。大きな食道がんの状態をよく把握することができますが、早期の食道がんの発見にはあまり適していません。進行した食道がんでは、食道に潰瘍や隆起、狭窄が見られます。
当院では、鎮静剤や鎮痛剤を使用して痛みのない胃カメラ検査を行っています。気になる症状がある方は、ご相談いただければ幸いです。
食道がんの治療
表在食道がんのケース:内視鏡治療・外科手術・化学放射線療法
表在食道がんの治療には、内視鏡治療、外科手術、化学放射線療法(化学療法と放射線治療の組み合わせ)の3つがあります。治療法は、食道周辺のリンパ節を除去する必要性(リンパ節転移のリスク)に基づいて選択されます。リンパ節転移のリスクは、がんの広がりや深さ、組織のタイプなどを総合的に考慮して判断されます。
リンパ節転移のリスクが比較的低いと見込まれる病変に対しては、内視鏡的粘膜下剥離術(ESD)という治療法が行われます。この方法では、内視鏡を使って直接病変を切除します。
ESDは開胸手術とは異なり、全身麻酔は必要ありません。また、術後の痛みも軽減され、身体的な負担が少ない治療法です。
ただし、切除された病変の病理検査結果によってリンパ節転移のリスクが判明した場合は、追加の治療が必要となります。内視鏡治療が困難な場合や追加治療が必要な場合は、外科手術または化学放射線療法が選択されます。
進行食道がんのケース:外科手術・化学療法・放射線治療
遠隔転移のない、手術でがんを切除できる場合には外科手術が選択されます。がんの広がりに応じて、手術前にがんを縮小するための化学療法(術前補助化学療法)や、術後の再発予防のための化学療法(術後補助化学療法)が併用されることもあります。体力的な制約がある場合や手術を望まない場合は、化学放射線療法や放射線治療のみが選択されます。
遠隔転移があり、がんを切除することができない進行食道がんのケースでは、がんの進行を抑制するために化学療法が行われます。
食道がんは早期発見であれば、内視鏡治療により身体への負担が少ない完治が期待できる疾患です。早期発見と早期治療のためには、定期的に胃カメラ検査を受けることが重要です。